食後に体がポカポカしてきたり、汗をかいたりする――この現象は「食事誘発性熱産生(DIT:diet-induced thermogenesis)」といって、食べたものを消化・吸収するときに消費されるエネルギーによるものです。今回は食事誘発性熱産生についてお伝えします。
エネルギー消費量
私たちは、食事から得たエネルギー(エネルギー摂取)と、体を動かすことで使われるエネルギー(エネルギー消費)の収支のバランスによって健康な体を保っています。エネルギー摂取量は食べた食事が体内でどれだけ熱量を生み出せるかを表し、エネルギー消費量は生命維持や日常の生活活動・運動などでどれだけ熱量を使ったかを表します。
エネルギー消費量は、基礎代謝量(約60%)、身体活動量(30%)、食事誘発性熱産生(約10%)の3つで構成されています。
・基礎代謝量
心身ともに安静な状態のときに生命維持のために消費される必要最小限のエネルギー量のことをいいます。脳などの臓器を動かすことや体温維持、呼吸などに使われるエネルギー量であり、体格に依存するため個人差が大きく、一般的には加齢に伴って低下します。
・身体活動量
日常の生活活動(掃除や買い物に行く、仕事をするなど)と、ウォーキングやフィットネスなどの運動で消費されるエネルギー量のことをいいます。体格、活動強度、活動時間により消費されるエネルギー量が決まります。
・食事誘発性熱産生
食事誘発性熱産生で消費するエネルギー量は、栄養素によって異なります。たんぱく質だけを摂った場合は摂取エネルギーの約30%、糖質だけの場合は約6%、脂質だけの場合は約4%を消費します。通常の食事はこれらの混合になるので、全体として約10%消費されることになります。10%なんて少ないように思われるかもしれませんが、1日に3回食事をしているわけですから、食事内容を工夫したりすれば、消費エネルギー量を高めることができます。
食事誘発性熱産生を高めるためには?
- 朝食を食べる
食事誘発性熱産生は、夕食より朝食を摂ったときのほうが約2倍高いといわれています。朝食を食べることで代謝を上げ、太りにくくします。
また、朝食を食べることは体を目覚めさせ、体内時計をリセットするため、体調維持にもつながります。
ほかにも、学力や作業効率のアップ、運動能力を高める、便通改善などといった効果がたくさんあります。
- ゆっくりよく噛んで食べる
ゆっくりよく噛んで食べると、食事誘発性熱産生が高まることが研究で明らかにされています。噛む回数が増えると、胃や小腸などの消化器に送られる血流量が増えて消化活動が活発になり、食事誘発性熱産生が大きくなるからです。体重60㎏の人が1日3回、1年間、ゆっくりよく噛んで食事をした場合、咀嚼速度が速い場合に比べて体脂肪に換算すると1.5㎏分のエネルギーを多く消費することになるそうです。
ほかにもゆっくりよく噛んで食べることのメリットとして、満腹感が得られやすく食べ過ぎを防ぐこと、視床下部からヒスタミンが分泌され食欲が抑制されることなどが期待されるため、太りにくい体づくりにつながります。
- たんぱく質は不足しないように
たんぱく質は脂質や糖質に比べてエネルギー消費量が高いため、たんぱく質をしっかり摂ること。たんぱく質は筋肉の材料でもあります。たんぱく質を摂ると食事誘発性熱産生を高めるだけでなく、筋肉を増やすことにもつながるため、代謝アップになります。
毎食、肉、魚、大豆製品、卵などを取り入れ、適度な運動を心がけ、筋肉をつけましょう!
食後、体が温まる理由がわかったことと思います。食事誘発性熱産生は、代謝アップにつながるので、ぜひ、高めるように意識してみてください。
【参考文献】
・厚生労働省 健康日本21アクション支援システム〜健康づくりサポートネット〜
「身体活動とエネルギー代謝」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-02-003
・健康長寿ネット「エネルギー消費量の測定方法」
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tairyoku-kiki/energy-sokutei.html
・日本栄養・食糧学会誌 . 2010;63(3):101-106 「食事時刻の変化が若年女子の食事誘発性熱産生に及ぼす影響」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/63/3/63_3_101/_article/-char/ja/
・東京科学大学「ゆっくり食べると食後のエネルギー消費量が増えることを発見」
https://www.titech.ac.jp/news/2014/027599
・東京科学大学「長時間咀嚼すると食後のエネルギー消費が増える」
https://www.titech.ac.jp/news/2015/031199
・噛むこと研究室「噛むことダイエット ゆっくり噛むと消費エネルギーが増大!?」



