腸内環境に対する注目度が年々、高まりつつありますが、「短鎖脂肪酸」が腸内環境を整えることはご存じでしょうか? 今回は、短鎖脂肪酸とは何か、なぜ腸によいのかについてお伝えします。
短鎖脂肪酸とは
脂肪酸は、炭素(C)・水素(H)・酸素 (O)の3種類の原子で構成され、炭素が鎖状につながった構造をしています。炭素の数や炭素と炭素のつながり方の違いによりさまざまな種類がありますが、炭素の数が6個以下のものを「短鎖脂肪酸」と呼びます。腸内環境に関係する短鎖脂肪酸の代表的なものは、酢酸、酪酸、プロピオン酸の3つ。これらは大腸で腸内細菌が食物繊維などを餌に発酵してつくられます。
短鎖脂肪酸の役割
短鎖脂肪酸には、悪玉菌の増殖を抑えたり、大腸の収縮運動を促したり、腸内環境を整えて免疫力を高めたりなど、さまざまな役割があります。
- 悪玉菌の増殖を抑え、腸内環境を整える
腸内に生息する細菌は、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つに分類されます。善玉菌は体によい影響を及ぼし、悪玉菌は悪い影響をもたらします。日和見菌はどちらにも属さず、善玉菌、悪玉菌、どちらか優勢なほうの味方をします。善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7の割合で腸内に存在するのが理想的といわれますが、このバランスが崩れると、免疫力が落ち、体調を崩したりします。肥満や動脈硬化、糖尿病の方の腸内環境は、このバランスが崩れているという報告があります。
短鎖脂肪酸は、腸内を弱酸性に保つことで、悪玉菌の増殖を抑え、腸内環境を整える働きをします。特に酢酸は殺菌作用があり、効果を発揮します。腸内の免疫機能を高める働きもあり、細菌やウイルスによる感染症を予防します。
- 収縮運動を活発にする
食べたものは消化・吸収されながら肛門側へ移動しますが、その移動の収縮運動を促し、排便をスムーズにします。この運動が低下すると、排便を促すことができず、溜まった便は異常に発酵して腸内環境を悪くし、便秘を招きます。短鎖脂肪酸は、この収縮運動を活発にして、自然な排便を促し、便秘を予防してくれます。
大腸には細菌などが体内へ侵入するのを防ぐバリア機能がありますが、短鎖脂肪酸はそのバリア機能が正常に働けるように助けてくれることもわかってきました。
また、短鎖脂肪酸は血流にのって全身に行き渡り、交感神経を活発化させ、基礎代謝を高めたり、食欲のコントロールや脂肪の蓄積を抑制するなど、抗肥満作用があることも知られています。
短鎖脂肪酸を増やすためには
短鎖脂肪酸は酢や乳製品などに含まれていますが、食品で摂取した短鎖脂肪酸は小腸で吸収されてしまうため、ほとんど大腸には届かないといわれています。そのため、大腸で短鎖脂肪酸をつくってくれる「善玉菌」を増やすことが大切です。それには、善玉菌のエサとなる発酵性食物繊維をとることと善玉菌を多く含む発酵食品をとることがポイントです。
食物繊維には水溶性と不溶性がありますが、水溶性食物繊維にプラスして、難消化性でんぷんなど一部の不溶性食物繊維を合わせたものを「発酵性食物繊維」と呼びます。この発酵性食物繊維は、善玉菌のエサとなり、増えた善玉菌が発酵・分解され、短鎖脂肪酸がつくり出され、腸内環境を整えます。
【発酵性食物繊維を多く含む食品】
大麦、雑穀、オートミール、ライ麦、大豆、インゲン豆、玉ねぎ、牛蒡、じゃがいも、バナナ、りんご、キウイフルーツ、昆布やわかめなどの海藻 など。
【善玉菌を多く含む発酵食品】
納豆、ヨーグルト、味噌、チーズ、キムチ など。
糖やコレステロールの吸収抑制など、生活習慣病の予防効果も期待できるので、毎食、意識して発酵性食物繊維を多く含む食品と善玉菌を多く含む食品をとるといいでしょう。そして、規則正しい生活や適度な運動、しっかり睡眠をとることも、腸内環境を整え、短鎖脂肪酸を増やすことに繋がります。お酒は腸内で生育する菌のバランスを崩す恐れがあるので、ほどほどに!
【参考文献】
・農林水産省 脂肪酸
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_kihon/fatty_acid.html
・厚生労働省 e-ヘルスネット「腸内細菌と健康」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html
ライター:山下 真澄
管理栄養士|日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士|
食育インストラクター|一級惣菜管理士|調理師