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競技特性や目的で食事内容は変わる!
2024.01.23 おすすめ記事

競技特性や目的で食事内容は変わる!

スポーツ選手にとって食事は、競技パフォーマンス向上や体づくり、体を動かすエネルギー源、怪我予防など、大切な役割がいろいろありますが、競技に応じた運動強度や時間、さらに、年齢、性別、体格による違いがあるため、競技特性や目的に応じて食事内容を変えなければなりません。

スポーツ選手に必要な栄養素

 どの競技にも共通して必要な栄養素は「五大栄養素」です。「これを食べればよいという食べ物はありますか?」とよく聞かれますが、そのような万能な食べ物はなく、基本は五大栄養素を食べ物からしっかり摂ることです。

五大栄養素にはそれぞれ役割があり、栄養素が体内に入り役割を果たしながら、体を動かすエネルギー源になったり、筋肉や血液、骨などの組織をつくったり、体の調子を整えたりしています。ただし、栄養素は多くても少なくてもその役割を十分に果たすことができません。体が必要とするものを必要な量だけ摂ることが肝心です。

五大栄養素とは、「炭水化物・たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラル」のこと。これらの栄養素をバランスよく摂るには「主食、主菜、副菜、乳製品、果物」が揃った食事にすることが基本です。

詳しい内容は、Food Library「健康的な食生活の基本-毎日3食そしてバランスよく- 」「栄養バランスのいい食事とは」もご覧ください。

筋肉を動かすためには…

 私たちが運動をするときには、筋肉を収縮させて体を動かしています。筋肉の収縮に必要なエネルギー供給栄養素は、糖質、脂質、たんぱく質です。これらの栄養素が分解されATP(アデノシン三リン酸)と呼ばれる化合物が産み出されます。ATPはアデノシンという物質に3つのリン酸基が結合しており、ATP分解酵素の働きによってATPを加水分解すると、1つのリン酸基(P)が外れてADP(アデノシン二リン酸)になり、そのときに出てくるエネルギーを利用して筋肉が収縮されます。

 ATPは筋肉に貯蔵されている量が限られているため、激しい運動をすると短時間で使い果たされてしまいます。長時間運動を続けるには、ADPからATPを再合成して、ATPを供給し続けなくてはなりません。この仕組みを「エネルギー産生機構」といいます。

エネルギー産生機構には、酸素を必要とする有酸素性(好気的)エネルギー産生機構と酸素を必要としない無酸素性(嫌気的)エネルギー産生機構があり、運動の種類や持続時間によって、供給するエネルギー源が違います。

筋肉の収縮に必要なエネルギー供給系

 運動をし続けるためにはATPを再合成する必要があるのですが、それには3つの経路があります。「ATP-CP系」「解糖系(乳酸系)」「有酸素系」です。

【ATP-CP系】

筋肉に貯蔵されているクレアチンリン酸の分解によるエネルギーを利用してATPを再合成する経路のことです。この経路は非常に速い速度でATPを再合成することができるため、砲丸投げや短距離走など瞬発的な運動に必要なエネルギー源となります。ただし、筋肉に貯蔵されているクレアチンリン酸の量はごくわずかであるため、7〜8秒程度しか運動を持続できないといわれています。この経路は酸素を必要としない無酸素性(嫌気的)代謝です。

【解糖系(乳酸系)】

 筋肉に蓄えられた糖分(グリコーゲンやグルコース)を利用してATPを再合成する経路のことです。糖質を摂取するとグリコーゲンとして筋肉に貯蔵されるものとグルコースとして血液中に取り込まれるものがあり、それらを分解することでATPが再合成され、エネルギー源となります。この過程もATP-CP系同様に酸素を必要としない無酸素性(嫌気的)代謝です。持続時間が長い運動や運動強度が高い場合、グリコーゲンの分解が急激に高まり、ATPの再合成も高まることで乳酸が蓄積します。持続時間は30〜60秒程度といわれており、200m走や400m走、球技系の競技の主なエネルギー供給源です。

【有酸素系】

酸素を使ってエネルギーを産み出す経路のことです。脂質と糖を材料とし、脂質は血中に遊離脂肪酸として存在しており、糖は解糖系で分解された後、ピルビン酸になり、両方ともエネルギーを産生するミトコンドリアに入ります。そこで、アセチルCoAという物質につくり変えられて、TCA回路に取り込まれ、複雑な過程で処理されて、ATPが再合成されます。エネルギーを産み出すまでに時間がかかりますが、大量にエネルギーをつくることができます。酸素を利用してATPを合成するため、有酸素性(好気的)代謝です。持続時間は長時間であり、マラソンや陸上長距離、トライアスロンなど持久力が必要な競技の主なエネルギー供給源です。

このように、筋肉を動かすためには3つの供給系があり、運動強度や時間に深く関係しています。つまり、競技特性や目的に応じてエネルギー供給系が変わるため、摂取する栄養素を意識しなくてはなりません。次回は競技特性に合わせた食事の摂り方について、ご紹介します。

【参考文献・資料】

・アデノシン三リン酸/ATP

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-008.html

・有酸素性エネルギー代謝

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-02-001.html

ライター:山下 真澄

管理栄養士|日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士|
食育インストラクター|一級惣菜管理士|調理師