昨今、女性アスリートの活躍を目にする機会が多くなりました。アスリートにとって、よりよいパフォーマンスをするためには日々のコンディショニングがとても大切です。特に女性アスリートには特有の健康問題があり、その特性を理解してコンディションを調整しなくてはなりません。今回は、女性アスリート特有の健康問題についてお伝えします。
女性アスリートの三主徴
女性アスリート特有の健康問題として、「low energy availability(利用可能エネルギー不足)」「(視床下部性)無月経」「骨粗鬆症」があげられ、「女性アスリートの三主徴」と呼ばれています。これは、アメリカスポーツ医学会による定義です。継続的な激しいトレーニングが引き金となり、それぞれの発症が相互に影響し、女性アスリートの健康管理にとても重要な問題となっています。

本来ならば日々健康的にトレーニングを積み重ね、パフォーマンス向上につなげていかなくてはなりませんが、このような問題によって多くの女性アスリートが健康を阻害されているにもかかわらず、この三主徴を知らないアスリートや指導者が多いのが現状です。
発端は利用可能エネルギー不足
利用可能エネルギーとは、「身体機能の維持に必要なエネルギー」のことをいい、そのエネルギーが不足している状態が「low energy availability(利用可能エネルギー不足)」です。これは、「運動によるエネルギー消費量に見合った食事からのエネルギー摂取量が確保されていない状態」のこと。つまり、運動量が多いのに十分に食事を摂れていない、または、食べてはいるけれど運動量が多いため追いついていない状態です。この状態が続くと、体を維持することができず、さまざまな障害を招いてしまいます。
体重コントロールが必要な競技では食事制限をし、意図的に利用可能エネルギー不足の状態にしている場合もありますが、運動量が多いために食べる量が追いつかず、知らないうちに利用可能エネルギー不足に陥っている場合があります。
例えば、体操や新体操などの審美系競技や、陸上や水泳など持久力系の競技、柔道などの体重別階級制の競技のアスリートに多い傾向です。
このような競技では、体重やしなやかな体のラインを維持するため、食事を制限してしまう傾向にあり、利用可能エネルギー不足が起こってしまいます。
利用可能エネルギー不足状態が続くと、低栄養や低体重、体脂肪減少などを招き、ホルモン分泌が低下し、視床下部性無月経、骨代謝に影響を及ぼします。
成長期の場合は、運動をする分と身体機能を維持する分のエネルギーにプラスして、発育発達に必要なエネルギーが必要なため、多くのエネルギーを摂取しなければなりません。そのタイミングでエネルギー不足を起こしてしまうと、発育発達に大きな影響が出る恐れがあります。競技パフォーマンス低下だけではなく、選手生命を失ってしまう結果になる可能性も高くなるため、アスリートにとってエネルギー不足は重要な問題です。
利用可能エネルギー不足は女性だけではなく、男性にも深く関係する問題です。相対的にエネルギー不足が続くと、免疫力低下や生殖機能の障害、睡眠障害、心臓や血管の機能障害など、身体的な問題だけではなく、心理的な面にも影響します。男女を問わず、日ごろから、運動量に合った、摂取エネルギーを確保できているかを意識する必要があります。
次回は、三主徴のなかの「視床下部性無月経」「骨粗鬆症」について解説します。
【参考文献等】
・日本スポーツ協会「女性性アスリートの三主徴」
https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/Portals/0/resources/jiss/column/woman/seichoki_handobook_5.pdf
・日本スポーツ協会「女性アスリートの特性」
https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/ikusei/doc/AT/ATtext2022_Vol.3_p169-174_20250430.pdf
Mallinson RJ , De Souza MJ. Current perspectives on the etiology and manifestation of the “silent” component of the Female Athlete Triad. Int J Womens Health. 2014;6: 451–67.